小さな頃からケガをするとお母さんが「痛いの痛いの飛んでけー。」と言って優しく摩ってくれたり、吹いてくれたりした思い出があります。そんなおまじないのような言葉でしたが不思議なことに痛みが本当に軽くなるような気がしました。
陣痛の痛みも同じで、腰の痛みやお腹の痛みは想像以上の痛みです。解剖生理学的には当然の痛みとして、積極的に痛みをコントロールすべきでないとされています。麻酔以外にはコントロールできない種類のものと決め付けられていますが、そんな時でもご主人や家族、看護婦さんが優しく腰やお腹を摩っていると、気持ちが通じ合い信頼が生まれ、また、その苦しみの中にいる妊婦様の心も痛みも和らぐのは事実です。
 
では、痛みはどこで感じとるのでしょうか?その答えはまだ出ていません。感じるはずのない痛みや恐怖を感じることもあります。すなわち痛みは心で感じているのでしょう。医学的と言っても所詮、人間のわずかな部分しか解明できていないのが実情です。この痛みを自然の力で和らげる方法はないのでしょうか?そこで、私たち宮原レディースクリニックでは香りを使ったアロマテラピーに取り組んでいます。

 私たち人間には12の脳から直接出た神経があります。これは生き物として生きるために必要な神経達です。その神経達にも順番があり、これは生き残ることに欠かせない神経の順番になっています。その1番目の神経が嗅神経です。例えば生まれたばかりの赤ちゃんが(この赤ちゃんは動物でも同じことです)まずはお母さんの肌の温もりと微妙な香りを感じます。それは今まで浸っていた羊水とは異なる甘い香りを感じるのでしょう。その瞬間に全ての脳が活動を初め、生きる力をみなぎらせます。甘いオッパイの香りが赤ちゃんの哺乳の力を与え命の活力となります。
 
今、私たちが行おうとしている香りを使う治療(アロマテラピー)は単に流行ではありません。医学的分析をして最初に生きる知力を持った第1脳神経(嗅神経)を蘇らせることが身体の自然治癒力を引き出すのではと考えています。これを自己治癒(ホメオパシー)と呼ばれ、イギリスが先進国です。

 最近ではどこでもエッセンシャルオイルを販売されているのをみかけますが、エッセンシャルオイルを時々溶剤で薄めていたり、合成の香料を用いたポプリ用のオイルなどと間違えて購入することがあります。大切なことは質の高いエッセンシャルオイル、すなはち100%天然(オーガニック)のオイルを探すことから始まります。
 
まずは、そのエッセンシャルオイルが輸入ブランドであるか、学名、原料植物の産地、抽出方法やロット番号が明記されていることを確認しましょう。
(カルペパーハウス、シャリープライス、シュリーク、天の香り、ロバートティスランド、プラナロム、ニールズヤード、マギーティスランドなどのブランドが有名です。)
 
次に使用法として、香料浴、マッサージ、入浴、その他湿布、ハーブティーとして使用法は様々です。今回は陣痛がきつい時の背中のマッサージについて述べましょう。

 マッサージ効果として、血液、リンパ液の循環が良くなり、心血管系や自律神経系、さらには免疫系に良い作用を示します。また、緊張を和らげ、筋肉痛を鎮め、スキンシップは優しさを与え相互信頼関係を築きます。マッサージを行う時には次の事に注意して下さい。

 手のひらから温かさが伝わるように、手を温かくしておきましょう。冷たい手や寒い部屋で行うと、神経や筋肉が緊張して、効果がありません。またオイルは充分に使い、ゆっくりとしたリズムで行いましょう。時間的には最低10分以上はかけて中断することのないように配慮して下さい。特に陣痛時には腹ばいになることが困難ですので、坐位の状態でマッサージすることになります。時々腰を強く押したりすると効果的です。このマッサージは分娩の時だけでなく妊娠中の腰痛にも効果的ですので、家庭で御主人と行うのが良いでしょう。

背中の中心から肩にかけて大きく、ゆっくりマッサージをします。そしてUターンして円を描くようにもどってきます。首のつけねは親指をもってもみほぐしたり優しくたたきましょう。
マッサージオイルを作るためにはエッセンシャルオイルを薄めるためのキャリアオイルが欠かせません。代表的なオイルにはホホバオイル、スイーアーモンドオイル、グレープシールドオイル、小麦胚芽オイルがありますが、ホホバオイルが一般的です。マッサージオイルを作る時には、1%程度が適当です。
例えば、キャリアオイル30mlに対してエッセンシャルオイル6滴です。使い残しがないようにしましょう。
エッセンショルオイルはどれを選んでもかまいませんが、最初に自分の好みにあったものを選びます。ただし、あくまでも薄い濃度で使用して下さい。

ラベンダー(Lavandula officinalis)
科目:シソ科
主産地:フランス、イギリス
抽出する部位と方法:花と葉/水蒸気蒸留法
ノート:ミドルノート
作用:心 …抗うつ作用、神経強壮作用、鎮静作用など
   身体…抗炎症作用、細胞成長促進作用、循環器系強壮作用、身体強壮作用、鎮痛作用など

甘くすがすがしい香りはもっとも愛されている香りのひとつです。
バスに入れて使うほか、古くから優れた防虫効果が言われ、衣類の香りづけに使われてきました。またラベンダー水は肌のバランスを整える化粧水として、エリザベス朝の時代から女性たちの人気の的でした。その他ラベンダーにはストレスからくる緊張をほぐして精神のバランスを整えたり、頭痛や筋肉の痛みを和らげたりと、さまざまな作用があります。心身を暖めてくれるので、冷え症でつらいときに良いでしょう。やけどや日焼けのしすぎにも効果的です。
 また虫刺されやニキビにもよい効果をもたらします。眠れない夜にも試したいものです。特に他のエッセンシャルオイルとブレンドすることが容易で万能のオイルと考えられます。

使用上の注意
妊娠初期は悪阻で嗅覚が敏感になっていますので、避けたほうが無難です。

参考文献
●女性のためのアロマテラピー:マギー・ティスランド薯
●アロマテラピーハンドブック:香りの総合学院GRASSE