女性のカラダはデリケートなもの。さまざまな変調が大きな病気へとつながることも‥‥。
大切な体だけに病気を知ることは必要なことです。
ドクターアドバイス

 急に、何の前ぶれもなく出血が起こったら…あなたならどう対処しますか? まして、妊娠中に出血があったりしたら…。
いったいどのように判断すればいいのでしょうか? 妊娠中は特に、素人判断は禁物のようです。


妊娠中に出血して大変だったとか、何ともなかった等さまざまな違う体験談を聞いたことがありますが、どうなのでしょう?

 妊娠中の出血は、すぐに流産、早産を連想しがちですが、出血イコール流産の兆候とは限りません。原因はいろいろ考えられますが、痔出血や内診後の出血など妊娠に直接影響のないものも多いのです。しかし、これ以外の妊娠中の出血は、直接赤ちゃんに影響のあることが多いので、少しの出血も見逃さないこころくばりが大切です。

どのようなことが考えられるのですか?

 妊娠中のいつの時期に出血したかによって、さまざまな原因、病気が考えられます。時期ごとに出血の原因が違うと言っていいでしょう。出血は、妊娠5〜6ヵ月目を境に、前半期に多い出血、後半期に多い出血、全期間を通じてみられるものに分けられます。妊娠前半期の出血で注意が必要なものは、流産、子宮外妊娠、胞状奇胎が考えられます。

前半期の出血はあぶないのでしょうか?

 そうでもありません。妊娠直後の、月経予定日のころ1日か2日みられる少量の出血は、月経様出血といわれる、ホルモンの変動による出血です。ご心配はいりません。また、からだを激しく動かしたあとや、性交のあとだけにみられる出血は、子宮頸管ポリープや子宮膣部びらんによる出血と思われます。とくに治療はいそぎませんが、検診時に医師に相談しましょう。これらのように、きっかけがすぐわかるときは、判断がつきやすいのですが、なんとなく少量の出血があって気になるというときは、切迫流産の初期の兆候であることもあります。あまりからだを動かしたり、重いものを持ったりしないで休養をとりながらようすをみます。出血が続いたり量が増えるときは受診しましょう。

■多量の出血は特に注意を
 多量の出血があるときは、まず、流産の疑いがあります。妊娠した人の10%前後は流産するといわれますが、もっとも危険なのは妊娠前半期です。出血と下腹部に痛みがあります。出血は褐色のことが多く、ふつうは少量ですが、中には大量の出血をみることがあります。量が多いほど赤ちゃんの危険度が高いのはいうまでもありません。出血と前後して、下腹部が張ったり、重苦しい腹痛を感じます。この2つの症状がそろった場合、まず流産の可能性が高いと考えられます。出血と腹痛が流産の大きな手がかりになるわけですが、妊娠初期(4ヵ月未満)は、全く痛みのないまま流産してしまうこともありますので、この時は出血だけが手がかりです。褐色のおりものということもありますから、注意しましょう。原則として入院して、安静を守るようにします。流産の進行を食い止める薬もありますが、とにかく安静を保つことが第一です。赤ちゃんが助かるかどうかは半々ですが、症状がおさまり、1週間たてば一安心。お腹の赤ちゃんは順調に育っているはずです。

■子宮外妊娠は内出血が多い
 生理不順に似た不規則な出血の場合は、出血があっても妊娠反応が陽性のままの場合は、子宮外妊娠かもしれせん。子宮外妊娠のときは一刻も早い手術が必要ですから、すぐに受診します。
 妊娠は、受精卵が着床したときに成立します。ふつうの場合、卵管の中で受精が行われると、受精卵は卵管の中を通り、子宮に送られて子宮内膜に着床します。このとき卵管が狭かったり、受精卵を運ぶ卵管の機能が低下しているなどの障害があると、受精卵は子宮にはいる前、つまり、子宮以外のところに着床してしまうのです。このような場合を子宮外妊娠といいます。このうちもっとも多いのが、卵管に着床する卵管妊娠で、妊娠500例に1回ぐらいの割合でおこります。そのほか、まれに卵巣や腹膜などに着床することもあります。子宮以外の場所に着床した受精卵は、長く育つことができず、多くは妊娠の初期に流産してしまいます。子宮外妊娠といっても、そのごく初期はふつうの妊娠と同じです。まず、月経のおくれがみられ、つわりもあります。尿検査による妊娠反応も陽性になります。症状があらわれるのは、流産がおこってからのことです。とつぜん激しい腹痛があり、その痛みと前後して出血します。ふつうの流産と違って10分から30分くらい、がまんできないほどの激痛があるのが特徴ですが、ときには陣痛のように子宮が収縮する痛みを繰り返すこともあります。子宮外妊娠の場合、外出血の量よりも、しばしば内出血している量が多いのです。そのため、急激な貧血状態になり、顔面が蒼白になり、冷や汗が出たり吐き気がおこったりしているうちに、ときにショック状態におちいることもあります。このような典型的な症状がおこったときは、子宮外妊娠という判断もつけやすいのですが、場合によっては腹痛も軽く、出血も少量で、ほとんど自覚症状のないこともあります。また、予定月経がおくれていると思って、何日かすぎたころに出血と腹痛があると、月経がはじまったと思って、子宮外妊娠に気付かずにすぎてしまうこともあります。ふだんと違うおなかの痛みや出血があったら、産婦人科で診察を受けるようにしたいものです。出血がおこったら、子宮外妊娠している場所を除去してしまわないかぎり、どんな止血剤を使っても出血はとまりません。そのため、開腹手術が必要になります。ほとんどの場合、片方の卵管を取ることになりますが、もう一方が異常なく残っているかぎりは、次に妊娠することは可能です。
 
とくに、大出血とともにイクラのような粒が出るという場合は、胞状奇胎による流産が考えられます。このときは、一刻も早く産婦人科の診察を受けます。胞状奇胎は、胎児を包む卵膜や胎盤を作る絨毛が病的に増殖し、直径0.5mmから1cmの粒が子宮内に充満してしまう状態です。ちょうど子宮の中がぶどうの房のようになるため、俗にぶどうっ子と呼ばれているものです。胞状奇胎では、胎児は成長することができず、死亡して吸収されてしまい、流産となります。ごくまれですが、一部だけ胞状奇胎がおこり、胎児は発育することがあり、これを部分胞状奇胎といいます。胞状奇胎があっても、ごく初期のうちは正常な妊娠と区別がつきません。つわりが重い、妊娠週数にくらべて子宮が大きすぎるなどの症状があることもありますが、多くは流産のような症状や出血があって、その中に粒々を認めて気がつきます。しかし、医師は超音波断層法などによって、早い時期に診断がつけられます。妊娠初期の出血、とくに茶褐色のおりものがだらだら続くというときは、早めに受診をされた方がよいでしょう。約400〜500人に1人の割合でみられ、発見が早いほどトラブルが少なくてすみます。胞状奇胎による流産では子宮の中にできた奇胎の粒が全部出てしまうまで出血が続くので、通常の流産以上の出血がおこります。大量出血を防ぐため、胞状奇胎とわかったら子宮内容除去手術(掻爬)が行われます。完全に除去されるまで、何度か行うこともあります。掻爬が完全に行われたとしても、奇胎が子宮の筋肉内に食い込んで、残っていることがあります。その増殖や悪性化を防ぐために定期的な検査が必要です。したがって、最低1年間は毎日の基礎体温の測定をし、毎月1回、尿中のホルモン検査を受けます。検査を受けているあいだは、次の妊娠は避けます。ごくまれですが、残った奇胎が悪性に変化して、絨毛上皮腫という一種のがんになることがあります。それを予防するためにも、検査はきちんと受けることは必要です。また、次の妊娠を望まない人の場合は、子宮を除去することもあります。以上が妊娠初期にみられる心配な出血です。

妊娠後半期はどのような心配があるのでょうか?

ふつうは、妊娠22週(6ヵ月)までに妊娠が途絶されることを流産、23週(7ヵ月)以降36週(10ヵ月目の第1週)までを早産といいます。どちらも妊娠が中絶されることは同じですが、胎児が母体の外で生きていけるかどうかでこのように分けられています。出血の量は人によって違いますが、妊娠5ヵ月目以降の流早産は必ず周期的な下腹部の痛みを伴うのが特徴です。陣痛と同じように、時間をおいておなかが張ったり、痛んだりします。ですから逆に、出血があっても腹痛がなければ、流早産の可能性は低いといえます。しかし、こうした症状がなくても、破水した場合、それ以上の妊娠継続は困難です。卵膜が破れたために、中の羊水がおりてしまった状態なので、早晩陣痛が始まってしまいます。すぐに入院して安静を保つようにします。といっても、じっと寝ていなければいけないというものではありません。あみ物や読書程度ならだいじょうぶです。思いつめずに、気持ちを楽にもつように心がけましょう。同時に、子宮の収縮を防ぐ薬を使い、少しでも長く胎児が母体にとどまるようにします。
 次に、前置胎盤ですが、妊娠末期の症状で、全妊婦の0.5〜1%にみられます。胎盤が子宮の前方、つまり出口付近について、子宮口をふさいでしまいます。妊娠の中期以降に、とつぜん大量の出血をみたら、まず前置胎盤が疑われるほど、出血がおもな症状となります。妊娠中期以降から子宮が大きくなるにしたがって、子宮頸管の内側の内子宮口は、すこしずつ開いていきます。前置胎盤の場合は、この内子宮口近くに胎盤がついています。内子宮口が開くにつれて、この胎盤がずれていけば問題はないのですが、胎盤というのは伸縮性のある組織ではありませんから、どうしても一部がはがれてしまって、出血してしまうものです。このはがれ方が大きいほど、出血も多くなります。

前 置 胎 盤

前置胎盤の出血は、陣痛がおこり、子宮口が開くときに強くなるといわれています。しかし妊娠中期の前置胎盤では、子宮口が開くときにもほとんど陣痛は感じないため、出血しても痛みがないということが流産などによる出血と見分ける手がかりになります。また、妊娠後半期にときどき出血があり、そのまま一時止まることもあります。出血が止まったからといって安心せずに、医師の診断を受けてください。子宮口の一部をふさいでいるだけの場合は、やがて出血もおさまり、ふつうの分娩ができることもあります。しかし、全面をふさいでいる場合は、輸血をしながら帝王切開をする方法がよくとられます。胎盤がふつうと違う位置についてしまう原因については、まだはっきりしていません。前置胎盤ということがわかっている場合は、出血したらすぐに適切な手当が必要です。時に大量出血を伴うため、母体の生命が危険になることもあります。
 正常の出産では、胎児が分娩された後に胎盤が出てきますが、分娩前に胎盤が子宮からはがれてしまうことを胎盤早期剥離といいます。転んだり、ぶつけた刺激が原因となることもありますが、一番多いのは妊娠中毒症との合併です。胎盤の3分の1が剥離すると胎児は危険といわれ、胎児の死亡率は50〜90%ときわめて高率になっています。激しい陣痛がつづき、それとともに子宮は内出血でかたくふくらみます。出血は少量ですが、顔面蒼白になり、ショックで脈も弱くなってしまいます。その場合はただちに病院へ。吸引や鉗子による分娩、または帝王切開にします。

■妊娠中の出血には、心配ないものも多い
 さまざまな出血の原因をお話してまいりましたが、出血には妊娠に直接影響のないものも多いのです。

子宮膣部びらん
妊娠中の出血の原因で最も多いのが次の子宮頸管ポリープと、この子宮膣部びらんです。出産経験者の半分近くの人にみられます。子宮膣部が赤くただれ、その部分から出血しますが、妊娠には影響がないので心配ありません。痛みはありませんが、びらんの部分から出血し、おりものに少し血液がまじったり、セックスの刺激で少量の出血をみたりします。妊娠前に検査、治療しておくのが一番ですが、妊娠には影響がないので、出産後に冷凍手術などでただれた部分を取り除きます。

子宮頸管ポリープ
子宮にできたイボのようなものです。大腸ポリープはガンに移行しやすいのですが、子宮頸管ポリープの場合は、ほとんどが良性で心配ありません。わりと簡単に出血します。おりものに血液がまじったり、セックス時に出血することもあります。妊娠には影響ありませんが、流産しやすい妊娠初期を除き、見つかれば基本的に手術で切除します。手術といっても、アッという間に終わる簡単なものです。

痔 出 血
肛門からの出血なので、妊娠には関係ないのですが、妊婦さんに多いので、トイレでびっくりしてしまうことがあります。トイレなとで真っ赤な鮮血が出るのが特徴です。切れ痔は、排便時に肛門が痛みますが、内痔核(俗にいうイボ痔)などはほとんど痛みがありません。分娩時のいきみで悪化しやすいので、便秘を予防し清潔にして、できるだけ早めに治しておきましょう。治りにくければ医師にご相談を。

内診後の出血
過敏な人は内診の後で、少量の茶色っぽい出血をみることがあります。膣部びらんのある人が多いのですが、あまり心配はありません。内診の直後でなく、数日たってから出血をみることもあります。

子 宮 ガ ン
きわめてまれなことですが、妊娠中でも子宮ガンによる出血がみられることがあります。子宮ガン検診は、妊娠中でも簡単に行なえますから、疑わしい場合は医師にみてもらいましょう。

弛 緩 出 血
出産後にみられる子宮からの出血です。出産によって子宮や産道には無数の傷ができます。出産後ある程度の出血はありますが、それが大量の出血であったり、少量でもだらだらと続き、結果的に出血量が多いときは、弛緩出血が考えられます。子宮から胎盤がはがれ、血管が切れたままで露出しても子宮収縮を繰り返すと、血管がおしつぶされて止血します。この子宮収縮が悪いと子宮壁から出血します。子宮収縮剤を投与したり、傷口の圧迫処理で止血します。大出血なら輸血による処置をします。また、出産の直前には「おしるし」と呼ばれる出血があります。これは、子宮の入り口が開き始めたために、子宮と赤ちゃんを包む卵膜の間にずれができて、毛細血管が切れるためにおこるものです。出産の兆候として、陣痛と相前後して現れます。

 以上のようなものは直接赤ちゃんに影響はないものですので、心配される必要はありません。しかし、最初にお話しましたように、少しの出血でも大丈夫と考えず、注意され病院にご相談されることが、かわいい赤ちゃんと出会うことになるのです。

(兵庫県神戸市 上田病院院長:上田緑郎先生)